『あやしの保健室Ⅱ 3 はらぺこあやかし獣』(染谷果子)

子どものやわらかな心を狙って小学校を渡り歩く自称養護教諭2年目25歳の奇野妖乃先生を主人公とするシリーズの第2期3巻。
今回赴任した学校では、四年生が飼育係としてウサギの世話をできる制度がありました。ところがウサギがみんな死んでしまったのでそれはなくなり、かわりに二年生がモルモットの飼育をすることになります。第1話の主人公は動物の飼育を楽しみにしていた三年生の籐弥。運悪くはざまの学年になってしまったのでその期待は裏切られ、その心のすきにつけこまれてモルモット霊のモル吉に取り憑かれます。モルモットなので見た目はゆるくてプイプイ鳴くけど、きっちりと取り憑いた相手は衰弱させます。
動物が好きな子どももいれば、嫌いな子どももいます。第2話の主人公はモルモット飼育をする二年生の紫音。モルモットに触らなくていいように、妖乃先生から〈観る人〉になるメガネを与えられます。〈観る〉ことは対象から距離を置いて関わりを避けることではなく、「ミル ハ アイ」であるという転倒をみせるのがおもしろいです。
ということで、今回は飼育・育成をテーマにしたエピソードが並びます。でも、妖乃先生がもっとも育成を得意としているのは、モルモットのような小動物ではありません。百合の花です。今巻も、あでやかな鬼百合が咲き誇る第4話が出色の出来でした。
第4話の主人公は、動物アレルギーを持っている六年生の美紅。幼なじみの小萩がネコを飼い始めたので、絶交を言い渡していました。ある日、美紅の椅子にチョークでモルモットとそのフンの落書きをされる事件が起こります。誰が犯人かわからず一番大事な小萩まで疑うようになった美紅は、気高いツノを生やします。妖乃先生は美紅に情熱と慈愛の鬼百合の花かんむりを与え、そのツノを飾ります。最強の防壁を得た美紅は、妖乃先生に「人をこえた」とまで言わしめるほどの孤高の美しさを手に入れ、周囲を威圧するようになります。
しかし、幼なじみの小萩の愛はそんなものはいとも簡単に乗り越えて美紅に届きます。ここで、凍結されていた幼なじみの時間が溶かされます。と同時に、その一瞬は余人の立ち入れないものとして凍結されます。誰にも立ち入れない幼なじみの聖域を垣間見ることができるのが、このシリーズの醍醐味のひとつです。
エピローグで妖乃先生が学校を去るのはいつものお約束通り。エピローグで籐弥は、友だちだったモルモットと死別したことを告げます。ここで学校に出入りしている獣医が、こう言います。

「命の長さがちがうのは、つらい。でもだからこそ、いっしょにいられる時間を大切にしたいし、愛したい。」

この場面が感慨深いです。人間の登場人物は、妖乃先生が長命種の妖怪であることを知りません。面倒をみた子どもたちが死んだ後も妖乃先生が途方もない時間を生きるであろうことを知っているのは、人外の登場人物と読者だけです。獣医の言葉は本人の意図とは異なる意味で読者に受けとめられます。