『満月のとちゅう』(はんだ浩恵)

小学六年生の美話と自称小学二十一年生のコピーライターソラモリさんのひと夏の言葉を巡る冒険『ソラモリさんとわたし』の続編。ソラモリさんのような魅力的な不審者はひと夏の思い出として消え去ってくれても美しいし、関係が継続するならそれもまたうれしいものです。『ソラモリさんとわたし』は後者のパターンできれいな収め方をしたことでも評判になりました。ということで、ふたりの物語は続きます。
『ソラモリさんとわたし』の美点は、独自の言語センスとふたりの関係性の独自性です。それは踏襲されつつ、今回は登場人物が大幅に増えたので、みんなでわいわい文系の活動をする楽しさも味わわせてもらえます。
本作は二部構成で、第一部は小学生時代最後の冬、第二部は中学文芸部編です。美話たちは、児童館に寄付する絵本を制作します。ところが頼みの綱の作画担当の子が体調不良になり、どう切り抜けるべきか試練が訪れます。ビンチだからこそ、小学生なりの知恵の出しあいが盛り上がります。ホワイトボードを使用して大人みたいにミーティングする様子も楽しげです。
ただしソラモリさんと言葉の世界に挑んでいる美話にとって、これは苦い失敗経験として記憶に刻みつけられます。釈然としない思いを抱えたまま、中学生編に突入します。なぜか美話に重い感情を向けてくる女子が現れます。そして文芸部のいにしえの作品集という不発弾が発掘されたことから、全面戦争が避けられなくなります。というガチの争いもありつつ、文芸部と歴史模型部が最底辺部活争いをしてるというゆる部活要素があるのもよいです。
ソラモリさんは変わらず、「めんどどくさい」とか「わかんない侍」とか大人げないハイセンスワードを繰り出してきます。大人げないソラモリさんと美話の関係は師妹ではなく、対等に近いものになります。これは大人に対する甘えを許さないということでもあるので、実はかなり厳しい態度です。とはいえ、美話は無事中学に進学しソラモリさんは「小学生マイナス二年生」に降格したので、どうなのかな。
読者としてはこのふたりの今後の行く末をみたいところですが、『ソラモリさんとわたし』も『満月のとちゅう』もラスト1行がキマっていてみごとに閉じられて(いながら開かれて)いるので、続編を望むべきか否か悩まれます。