『シニカル探偵 安土真 1 結成!放課後カイケツ団』(齊藤飛鳥)

渡辺さくらは目の前を横切った黒猫が塀にぶつかってしまうほどの疫病神体質の持ち主。周囲に不幸を招くのでひとつの土地に留まることができず、さくらとその家族は引っ越しを繰り返していました。厄介事に巻きこまないよう友だちはつくらず、ある事情で家にもいたくないので、さくらは転校のたびに学校内にひとりでひっそりと過ごせる隠れ家をつくる「アウトドア派のひきこもり」活動をしていました。ところが今回転校した学校ではさくらが目をつけた場所にいつも自称探偵の安土真という性格最悪のマッシュルーム頭の男子が先に探偵事務所をかまえていて、さくらも面倒事に引きずりこまれてしまいます。
作中には奇人変人が多く、キャラクターの造型の極端さが目を引きます。ピエタとトランジごっこができそうなさくらの体質はミステリ向けのようですが、いまのところこの設定は不幸ギャグを繰り出すための装置としての役割ばかり果たしています。〈災厄のさくら(カラミティーチェリー)〉という二つ名までついているのも笑えます。空き教室にもぐりこむためさくらはピッキングの技術を習得していて、もはや不法侵入常習の犯罪者になっています。
探偵役の安土真は口の悪さが最大の特徴です。容疑者に向かって「話をきかなくても、爆笑したくなるくらい犯人がばかだから、九十九パーセントわかっちゃったんだよ。あと、必要なのは、そのばかが犯人であることを証明するだけさ」と言い放つといった具合。罵倒の語彙がちゃんと小学生レベルなのもいいです。
さくらが家にいたくない理由は、母親があやしい宗教に洗脳されていたからでした。マトリョーシカに千手観音のような手が生えたパルゲニョ神という神様を信仰している母親が朝っぱらから聖なるカスタネットを叩いて騒ぐといった奇行をするのが、さくらの家の日常です。宗教二世という深刻な問題が、この作品ではほとんどギャグとして扱われています。
さくらは隠れ家探しが難航したある学校の事例を振り返ります。その学校は空き教室が多く学校図書館の閲覧室に転用されていて、第四閲覧室までつくられていました。これは隠れ家に絶好の場所のようでしたが、素行の悪い生徒が暴力行為をおこなうリンチルームになっていて、さくらは近寄れませんでした。ばかげているくらい治安の悪い学校です。ここで提示されているのは、少子化で空き教室が増えると同時に教員の多忙化と人手不足のせいで学校内の安全管理が行き届かなくなっているという、きわめて現代的な問題です。
いままでの齊藤作品でも文体の操作*1などの搦め手で社会問題に取り組んでいましたが、重い問題をギャグにして笑い飛ばすという今作の手法はかなり先鋭的にみえます。著者の作風を知らない初見の読者であれば、悪ふざけがすぎると嫌悪感を抱いてしまうかもしれません。
ブラウン神父を引いて大きすぎるため目につかない凶器を出すといった、ミステリとしてのおもしろさも確保されています。
空き家を秘密基地にすることがさくらたちの目標で、そのための戦力増強、仲間集めが当面の課題です。全体としては子どもの居場所というまっとうに児童文学的なテーマに取り組んでいるようにみえます。そこにこの作品の過剰さがどう作用するのか、先が気になります。

*1:『へなちょこ探偵24じ』のハードボイルド調、『子ども食堂かみふうせん』のポリアンナ調の語りの仮装など。