『くじらのとうせんぼう』(作=杉山径一/ え=真鍋博)

真鍋博 本の本』*1で、70年代から80年代あたりに不条理児童文学を出していた杉山径一とSFやミステリの挿画で有名な真鍋博が組んでつくった絵童話があることを知り、探してみました。全ページに真鍋博のイラストがあり、文字の部分にもイラストやエフェクトがかかる演出があったりして、いま読んでもスタイリッシュな本でした。
内容は、家が一軒しかない小さな島に住む家族の話です。両親の不在中になつおは電話で花火やさんを呼びます。図々しい花火やさんは家に上がりこんでどこかへ電話をかけ、くじらのとうせんぼうをつかまえるための仲間を呼び寄せます。親のいないときに家に不審者を入れちゃダメだって。なつおやくろやぎのれんたんもとうせんぼう捕獲に協力し、奇想天外な冒険が始まります。
今村秀夫によるあとがきは、自分の息子と対談をするという形式で記述されています。ここで指摘されているように、なつおがそのままくじらに乗って旅に出て家に帰らないという結末には当惑させられます。なつおの失踪後に生まれた弟が「なつお」と名付けられて、彼が「もうひとりのなつおを みつけるんだ」と決心して物語は閉じられます。このラストはある種の分身譚のようにも感じられ、奇妙な読後感を残します。