『アフェイリア国とメイドと最高のウソ』(ジェラルディン・マコックラン)

主人公のグローリアは、アフェイリア国の最高指導者マダム・スプリーマの屋敷で働くメイドです。性格の悪いマダム・スプリーマにいつもいびられていました。国では2ヶ月も雨が降り続いていて、洪水の発生が懸念されていました。しかしマダム・スプリーマは城門を閉鎖するなどの実効的な対策をとらず、まだ雨は続くという気象学者の報告を握りつぶして雨は間もなくやむと嘘の発表をします。そのうえ、国を投げ出して失踪してしまいます。マダム・スプリーマの夫のティモールは窮余の策としてグローリアをマダム・スプリーマの代役に立てることを思いつきます。こうして、なんの罪もないメイドがクズ為政者の尻拭いをさせられる地獄のコメディが始まります。
国の指導者たちがクズすぎるので、読むとどんどん胃に穴が空いていきます。グローリアが現実的な対策を打とうとしても、そんなことよりブルーインパルスを飛ばす方が国民が励まされていいよと言ってくるような高官ばかり。ほかにも、災害は私腹を肥やすチャンスだと考えたり、新聞には政府に都合のいいことしか書かせなかったり、燃料は片道分しか積まなかったり。著者はイギリスの作家で、この作品は1927年にアメリカで起きた災害をモデルにしているそうなのですが、日本人がずっとみている悪夢も思い起こさせます。
グローリアの共犯者のティモールも場面によってふるまいが変わり、信じていいのか判然としません。もう人類は信じられないので、犬を信じましょう。グローリアの苦難と並行して語られる犬の活躍が、数少ない清涼剤です。少量の救いを紛れこませながら、現代イギリスを代表する児童文学作家であるマコックランは読者に地獄の道を進ませます。
でも、もっともひどい地獄をみたのは翻訳家の大谷真弓だったのではないでしょうか。作中の新聞に載っているたくさんのアナグラムを日本語に置き換えるのにどれほど血を吐いたことか。この神業には驚嘆するしかありません。