『スナックこども』(令丈ヒロ子/さく まつながもえ/え)

こどもにだって、イライラムカムカして眠れない夜はあります。それを発散する手段を持たないのが、こどものつらいところです。そんなこどもたちのために令丈ヒロ子が、こどものためのスナックという夢空間を用意してくれました。
ベッドの下にもぐりこむとスナックまでの道が開けるという入り口の設定がまず秀逸です。そしてメニューも、バカ長い串団子とか半分に切ってくりぬいたメロンのなかにアイスをたくさん入たのとか、食欲に忠実で遊び心にあふれたものばかりで最高です。
みんなで騒いで歌って大人への不満を吐き出す様子も楽しげでいいですが、天井があったりなかったりする店内で寝転がって星空を眺め、「いいおとなになりたい」と語りあうしんみりした場面も尊いです。
こどものためのスナックという設定だと、「山田県立山田小学校」シリーズ第3巻に登場した「スナック山田」も思い出されます。提供されるのはスナック菓子だけど、飲み物をボトルキープしてもらうこともできます。もちろん酒ではなく、ボトルキープされるのはカルピスです。それを水わりやソーダわりにしてもらうことができますが、ストレートで飲むこともできるというのには恐怖を感じてしまいます。スナックでの遊び方を心得ている友だちを尊敬して「さん」づけで呼ぶようになるというオチまで、すべてがくだらなくて笑えるエピソードでした。ただし、スナックのママは家庭科クラブの女子で客は男子で、その背後にあるケアするのは女性でケアされるのは男性であるというジェンダー観は、いま振り返ると児童向け作品としてはちょっとキツいような気もします。令丈ヒロ子のスナックは、そういう点は心配する必要はありません。しかし、令丈ヒロ子のスナックのもっとも優れた点は、これが(おそらく)夢的なものであるということです。それならば、いくらドカ食いしても健康上の心配はありません。いくらこどもとはいえ、夜中に本当にアイス10個のせクリームソーダとか10枚重ねホットケーキなんか食べたら至ってしまいかねませんから。