「ケイゾウさんは四月がきらいです。」(市川宣子)

ケイゾウさんは四月がきらいです。 (福音館創作童話シリーズ)

ケイゾウさんは四月がきらいです。 (福音館創作童話シリーズ)

 まぎれもなく傑作。この先何十年も子供達に愛されるロングセラーになることでしょう。
 主人公は幼稚園で飼われているおいぼれのにわとりケイゾウさん。彼にはきらいなものがいっぱいあっていつでも不機嫌です。無理もありません。彼が相手にしなければならない園児達は愚鈍で粗暴で行儀が悪く、いいところなんてどこにもないんですから。ケイゾウさんは園児によって川に流されそうになったり滑り台の上から落とされたり、パチンコでドングリをぶつけられたりさんざんな目にあいます。にわとりと園児の絶望的なディスコミュニケーションを描きながら、両者のすれ違いを見事にギャグに昇華しています。
 ケイゾウさんは性格の悪い老いぼれで園児にもいい子はいない、幼稚園の先生も職務を淡々とこなすだけで特別よい人間とは描かれていません。登場人物がみんな殺伐としているのに作品世界がなんともまったりしていてやさしさが感じられるのが不思議です。