「天山の巫女ソニン一 黄金の燕」(菅野雪虫)

天山の巫女ソニン 1 黄金の燕

天山の巫女ソニン 1 黄金の燕

 第46回講談社児童文学新人賞受賞作。選考会満場一致とものすごい煽りようですが、選評を見ると金原瑞人が「小野不由美を「ですます体」でやってみましたという感じの、よくできたファンタジー」と身も蓋もないことをいっていたりして笑えます。さすがに十二国記と比べたら見劣りがするのは仕方ないでしょう。わたしも思いましたけど。
 主人公のソニンは生まれてすぐに巫女の暮らす天山に連れて行かれ、巫女としてのエリート教育を受けることになります。ところが彼女は落ちこぼれてしまい、12歳で天山を追われ、実家にかえされます。やがて彼女は王子さまに見込まれ、今度は侍女としてお城に連れて行かれます。そこで国を揺るがす陰謀に巻き込まれるというストーリー。
 いったんはエリート教育を受けながら落ちこぼれてしまった主人公が、いろんな立場の人間の生き方を観察するという筋立ては興味深いです。ヒロインがピンチになるとすかさず助けてくれる男が現れるなどご都合主義が目立つ部分はありますが、ストーリーには起伏があってそこそこ楽しめます。
 ところで、文学賞の選評は文筆を生業とするものが書くのですから、それなりの芸が求められます。いや、金原瑞人の選評は面白かったです。ファンタジーの書き方ついて「ファンタジーの魅力の一つは、世界を作り上げることです。もっと明確に鮮やかに世界を想像して、書きこんでください。」とアドバイスしながら、最後に「ただし、『指輪物語』ほどでなくていいです。」と落ちをつける律儀さ。しかしふざけているようで「アニメをそのまま文章にしようとしても無理。小説には小説の書き方があります。電撃文庫を読んで勉強しましょう。 」というアドバイスなどは的確です。別に弟子が電撃で書いているからいっているわけではないでしょう。児童文学がライトノベルから学ぶべきことはたくさんあるはずです。
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