「海賊島探検株式会社」(古田足日)

海賊島探検株式界社 (偕成社文庫)

海賊島探検株式界社 (偕成社文庫)

 無人島での宝探し。二派に分裂する少年グループと、誰もいないはずの島で暗躍する大人。登場人物はみな腹に一物抱えているくせものぞろい。この三派が宝をめぐって争う血湧き肉躍る一級の冒険小説です。
 一級の冒険小説なのですが、この作品の特徴は「株式会社」であることでしょう。子供が株式会社を設立する児童文学といえばそれこそ古田足日には「宿題ひきうけ株式会社」がありますし、那須正幹の「うわさのズッコケ株式会社」も名作の誉れ高い作品です。しかしこの作品はその先を行っています。無人島を探検したいという欲望を持った子供達は、その欲望の達成を妨害する様々な壁に直面します。冒険のための装備品の不足、端的に言えば金がないという問題です。その問題の解決のために子供達は株式会社の設立を思いつきます。このような具体的な問題解決の方法を提示しているところがいかにも古田足日です。ところが株式会社という形にしてしまったために問題も生じます。資金不足に悩む株式会社に大口の出資者が現れるのですが、これが評判の悪い上級生のセイイチローという人物でした。かれは舟など重要な物資を提供してくれますが、その見返りに自分を株式会社の社長にするよう要求します。かれは社長の立場を利用して子供達をいいようにこき使います。ここで立ち上がったのがナカヤマ・ケンゾーという少年でした。かれはキューバカストロを信奉していて、にせカストロというあだ名を付けられています。にせカストロセイイチローに対抗するため労働組合の結成を提案し、自ら委員長に就任します。会社があれば組合があるのは当たり前。1970年の児童文学、おそろしく進歩的です。
 しかし作者はにせカストロを革新思想のヒーローとしては描いていません。にせカストロの言動は威勢がよく、社長のセイイチローや町会議員を相手に先頭に立って交渉しに行きますが、相手に少しつっこまれるとすぐにたじろいでしまいます。にせカストロの思想や言葉はあくまで借りものに過ぎないため、かれは結果的に道化になってしまいます。この物語はにせカストロが借りものの思想から脱却し、自分の考えを確立していく物語とも読み取れます。物語の幕引きのにせカストロのセリフ「地球はまわり、意見はかわる。人間は成長するものだ、とキューバカストロはいっている。」という言葉はかれ自身が獲得した真実の言葉です。
 まあ、この作品に関してはあまり理屈をこねる必要はありません。繰り返しになりますが、この作品は血湧き肉躍る一級の冒険小説。それだけで充分です。