「シルバーチャイルドⅢ 目覚めよ!小さき戦士たち」(クリフ・マクニッシュ)

シルバーチャイルド〈3〉目覚めよ!小さき戦士たち

シルバーチャイルド〈3〉目覚めよ!小さき戦士たち

 「シルバーチャイルド」最終巻、迫り来るロアに対して子供達は決め手となる打開策をこうじきれず、焦燥感だけをつのらせていきます。幼いジェニーがどんな武器にでも変身できる特殊能力を手に入れますが、情報を司るヘレンがなかなかロアの弱点にたどり着けないため出番を与えられません。頼みの綱のミロとプロテクターもロアとの戦いに消耗しいくばくも持ちそうにない。地球の命運やいかにと。
 なんといってもロアの存在感が圧倒的です。邪悪で強くて、度を超して巨大。「〈ロア〉は月の表面で歯をこすって鋭くした。」なんて描写にぞくぞくさせられるではありませんか。そしてロアに立ち向かう子供達も負けず劣らず異形っぷりを見せてくれます。特にこの巻で覚醒したまさに最終兵器のジェニーは飛び抜けています。ヘレンの想像によっていかようにも姿を変えられるジェニーの存在は反則もいいところです。
 ストーリー自体はハリウッド映画で何度も見たようなチープな英雄的行為のエピソードのつみかさねで特に目新しいところはありませんが、マクニッシュの頭のねじがはずれているとしか思えない想像力の世界を楽しめるだけでこの本は充分価値があります。ラストの展開などは「力を手に入れたからって急にそんなに好戦的になっていいのか?」とたしなめたくなりますが、そこはそれ。こういう部分に大人の検閲を入れてはいけません。子供だけで戦わなくてはいけないという物語を誰よりも深刻に受け止められるのは子供でしかないのですから。
 金原瑞人の訳者あとがきはわざとらしいあおりが鼻についていつも話半分くらいにしか聞いていないのですが、この本に関しては9割方うなずけます。マクニッシュのぶっとんだ想像力には敬服します。ただし、金原瑞人はひとつだけでっかい勘違いをしています。「シルバーチャイルド」はファンタジーではありません。これはSFです。金原瑞人はこの作品のあらすじを説明するのに苦労していますが、SF者向けの説明をすれば簡単。「巨大な宇宙生物とミュータントが戦う話」これだけですんでしまいます。スケールの大きさとイマジネーションの冒険はSFの得意分野です。もしくはロアやプロテクターの存在をクトゥルー神話的なとらえ方をすることもできましょう。いずれにせよストーリーや設定自体に目新しいものはない。この作品を「ニューウェーブのモダン・ファンタジー」などと持ち上げる必要はありません。
 しかしそれも些末な問題。何度も繰り返しますがマクニッシュの想像力の世界を覗いておいて絶対損はありません。読書好きの方なら、マクニッシュの想像力と自分の想像力を戦わせるのは、きっと愉快な体験になると思います。