2008年に刊行された『
あたらしい図鑑』の続編が登場。『あたらしい図鑑』は、13歳の少年が
田村隆一がモデルと思われる巨漢の詩人に出会い、言葉のコレクションを始めるという物語でした。これはメジャー出版社が文庫化して「○○文庫 夏の100冊」に入れて大々的に布教すべき傑作で、文系中学生必読の書となっています。
『
ネッシーはいることにする』は、主人公の五十嵐純の中学校生活最後の夏の物語です。詩人村田周平の三回忌に誘われ、淡い恋心を抱いていたひまわりワンピースの高身長女子との再会もあり、さまざまな出来事が駆け巡っていきます。
『あたらしい図鑑』は言葉によって世界を知る話で、どちらかというと抽象的なものになっていました。『
ネッシーはいることにする』では世界をみる解像度が上がり、社会へのコミットを深めていくようになります。
ベトナムに単身赴任している父親から
ベトナム戦争に関わる衝撃的な写真をメールで送られて吐き気をもよおしてしまったりと、社会との関わりは暴力性を帯びる要素ももたらします。
田村隆一や
ベトナム戦争といった素材をみるに、このシリーズが著者のノスタル
ジーの産物であるという側面を持っていることは確実でしょう。ただし、舞台となっているのは現代です。肌の黒い日本人のスポーツ選手が活躍していたり、親友がレインボーな運動に関わったりしています。そこにややちぐはぐな印象が持たれることは否めません。しかしそれも著者の知識や経験の蓄積の発露ではあるので、それを若い読者に向けて語ることには意味はあるはずです。