『なかなおりの魔法』(湯湯)
物語の着地点は明らかですが、やはりそこまでの過程は怖くて、ハラハラしながら読ませてくれます。
今回も平澤朋子のイラストが最高でした。1巻の『真夜中の妖精』では幻想的な美しさをみせてくれましたが、今回はホラーがメイン。カメラアングルの切り替えのうまさ、はっきりみせることのできない闇の絶妙な描きこみ、影絵芝居のような演出、さまざまな工夫がうまく噛みあっていて、スタイリッシュなアングラ感を醸し出しています。
わたしは怪談こそ、この世のすべてだと思うの。
怪談には恐怖があり、感動があり、生と死がある。
しかも、それを大人にも子どもにも伝えることができるのよ。
子どもから怪談を募集して編案するという企画を編集者から与えられた作家が主人公。本には『みんなの本』という仮タイトルがつけられます。ところが、『みんなの本』という怪談がすでに存在していることが明らかになります。そして、作業を進めている最中に出版社から一方的に企画の中止を申し渡されたり、投稿してきた子どもたちに異変が起きたりと、不可解なことが続くようになります。
『みんなの本』は、『牛の首』のような存在しない怪談でした。となると、問題になるのはその内容ではなく効果となります。それがタイトルにある「伝染」、ゾンビものや「リング」三部作のようなパンデミック型のホラーの様相を呈してきます。最悪の事態を予感してドキドキワクワクするのが、ホラーの醍醐味です。そんな楽しみを存分に味わわせてもらえます。
そして、最終的な恐怖の根源は、このシリーズの核心である怪談愛・物語愛です。メタと物語愛をこじらせたこのシリーズらしい幕引きは必見です。ある意味、究極の愛が実現されています。『みんなの本』は、間違いなく「本の怪談」シリーズの最高傑作です。
いま簡単に最高傑作と述べてしまいましたが、このシリーズが最高傑作を更新するハードルは、非常に高いものになっています。ここでシリーズの軌跡を簡単に振り返ってみましょう。
そのとき あなたは もういちど
わたしの ページを めるくでしょうそしたら わたしは
あなたに おしえてあげる
この よのなかで いちばん 悪いことを
(宮部みゆき・吉田尚令『悪い本』(岩崎書店・2011)より)
ということで、中学校の読書クラブを舞台にした「すみっこ★読書クラブ 事件ダイアリー」シリーズの第2弾。悪い本の伝道師としてのにかいどう青が、またもやらかしてくれます。
正式に読書クラブに加入した千秋は、幽霊が出るという噂のある旧図書館でおこなわれる合宿に参加することになります。目玉の企画はそれぞれがこわい話を紹介しあうというものでしたが、初心者の千秋はなにを紹介するか悩みます。
本の紹介の場面は、にかいどう青の独擅場です。最初に登場する『悪い本』は、軽いジャブでしかありません。定番のあのミステリ作家の作品を紹介するにも本は東雅夫編の角川ホラー文庫版なのかとか、あのSF作家の作品も文春文庫の『厭な物語』を出すのかとか、作品だけではなくアンソロジーにまでこだわるという驚きまで与えてくれます。そんななかで、初心者の千秋が選んだ本が、また納得感の強いものでした。
にかいどう青の選書センスには信頼しかありません。
ミステリ部分に関しては、副題から察してください。